【#102】 ちょっと良い話。

母を想う。

岩手は今朝、初冠雪だというニュースを見た。
さぞ今朝は 寒かったであろうと思う。
私が小さい頃 この時期は稲の脱穀の時期であった。
朝5時頃から 発動機のケタタマシイ音と共に
父と母の一日は始まっていた。
外は、晩秋の霜の日もあれば うっすらとした初冬の
雪の日もあった。どちらにしてもこの時期の朝の5時は寒い。
白球電気の灯りの下で 父は前日取り入れていた稲を一束一束脱穀機にかけていく。
山と積まれた稲の束を 一日かけて一束一束 一粒の
稲穂をも無駄にしないように 父の無骨は手で丁寧に脱穀機かけられてゆく。
母は脱穀機から吐き出される 藁を大きな束に結わえてゆく。
父と母は互いに会話を交わすこともなく 黙々とただただ黙々と白球電気の下で仕事をしている。
子供ながら 寒かろうな 眠かろうな と思った。
白夜が明ける頃 母は朝の食事の用意を始める。
まだ子供達は寝ているが その子供を起こし
食事をさせ学校に出さなければならない。
昔の農家でよく見た光景である。

この作業を毎年毎年 何十年もやって来たのだ。
いま80歳になり 足が曲がり体が小さくなった母の
姿に 朝から夜まで仕事に明け暮れた遠い日がある。
それは生活のためであり 子供を育てるための厳しい労働でありった。決して自分が楽しむためのものではなかった。
母の若いときの苦労は 今の母からは予想もつかないが
、わたにも目にはしっかりと焼きついている。
岩手の初冠雪の便りを聞いて 母が寒い想いをしていないだろうかと思った今朝である。              及川