【#1630】 二つの文楽考から

5月30日の日経新聞の「芸の脇道」という欄で、亀岡典子さんが「逆境
の文楽」という記事を書かれていた。その記事の内容は概ね次のような
内容であった。
 文楽は武士道や自己犠牲の精神など、日本人が古来から持ち合わせて
いる美徳を余すことなく表現されている。身を振り絞るような全身全霊
を込めて語る太夫、裂帛の気合を入れる三味線、ひたすら無となって人
魚を操る人形遣い。人間以上に繊細な動きをする人形、これは美徳の世
界としか表現できない。
 その文楽が、大阪市の橋本市長の行政改革で補助金を削減され苦境に
あるというのである。亀岡さんは文楽は日本人が大切にしてきた精神で
あり、情愛や美意識が詰まっているものである。故に後世に伝承されな
ければならないといっているのですが、でも補助金だけに頼っていて
は、いつかは消えて行くだろうといっている。私も同感です。同じ伝統
芸能でも歌舞伎は、新しい芸方を取り入れたり、若手育成に力をいれ内
部から改革を図ってファン層も広いし支持もえている。文楽にはそこが
足りないのではないか。歌舞伎は松竹という民間企業の制作・主催だか
ら結構企業努力をしている。文楽は文楽協会の補助金便りの運営であ
る。まだまだ伝統文化ということに甘えていると思うのである。

6月18日の産経新聞の文化欄にドラルド・キーン先生の「文学的価値あ
る唯一の人形芝居」と題して、「文楽を守るために」という記事があっ
たので読んでみた。ドナルド・キーン先生は、文楽劇場はガラガラで若
い人が来ていなかった。それは学校で文楽を教えないからであといって
います。またNHKは文楽を放送しないとも言っていますね。そのために
若い人、また多くの人には文楽の文学的価値や良さが分からないのであ
るというのです。文楽は日本芸術の中で最も特異なのもで、脚本は文学
上の傑作が書かれた、世界で唯一の人形芝居であるといわれております
し、日本人は文楽に誇りを持つべきだとも言われているのです。

このお二人の記事から、伝統文化を後世に伝えて行くには、一方では経
済的基盤をどのように確立して行くかという事と、その伝統文化の価値
をどのようにして多くの人に伝えファンになってもらうか考えなければ
ならないと思うのです。どんなに良い伝統文化であっても経済的基盤が
なければ後世に伝承していくことはできなくなりますし、経済的基盤を
確立するには多くの人に大切にされ支持されなければなりません。

伝統文化や伝統工芸といわれる日本人の精神性、美意識、繊細にして実
用的な匠の技、これは年々衰退し消えて行っています。亀岡先生もドナ
ルダ・キーン先生も共に日本の良さを守って行くには、内部から改革し
なければならないと言っておられます。

橋本市長の補助金削減もさることながら、業界の内部から生き残りをか
けた意識改革と組織改革が必要だと思いますね。